肖像権侵害とは?写真や動画を無断で使用された場合の基準、対処法、慰謝料を徹底解説
2025年4月29日
近年、スマートフォンの普及やSNSの隆盛により、誰もが気軽に写真や動画を撮影・共有できるようになりました。しかし、その一方で、知らぬ間に自分の顔写真や姿態がインターネット上に公開されたり、悪用されたりするケースも増えています。このようなトラブルで問題となるのが、「肖像権侵害」です。
「肖像権 侵害」は、一般の方にとっても決して他人事ではありません。あなたが被害者になる可能性もあれば、意図せず加害者になってしまう可能性もあります。自分の権利を守り、また他者の権利を侵害しないためにも、肖像権侵害について正しく理解しておくことが非常に重要です。
この記事では、肖像権とは何かという基本的なことから、どのような行為が肖像権侵害にあたるのか、その判断基準、万が一被害に遭ってしまった場合の具体的な対処法、請求できる可能性のある慰謝料の相場を中心に徹底的に解説します。この記事を読むことで、以下の点が理解できるでしょう。
肖像権とはどんな権利なのか
肖像権侵害となる行為とは
肖像権侵害の基準はどのように判断されるのか
肖像権を侵害された場合の対処法
一般人でも肖像権侵害を訴えることはできるのか
さあ、一緒に肖像権侵害の世界を深く掘り下げていきましょう。
肖像権の基本を知る:定義、根拠、そして2つの重要な権利
まず、**「肖像権 侵害」**を理解する上で不可欠な、肖像権そのものの定義と基本的な枠組みについて解説します。
肖像権とは何か?その定義と根拠
肖像権とは、自分の顔や姿態をみだりに「撮影」されたり、「公表」されたりしない権利を指します。これは、個人の人格的な利益に関わる非常に重要な権利です。
特筆すべきは、この肖像権が日本の法律で明確に条文として定められているわけではないという点です 。しかし、法的に保護されるべき権利として、これまでの裁判所の判例によって確立されてきました。肖像権は、日本国憲法第13条が保障する「幸福追求権」から派生した権利であると考えられています。
肖像権を構成する2つの重要な権利:プライバシー権とパブリシティ権
肖像権は、主にプライバシー権(人格権)とパブリシティ権(財産権)という、性質の異なる2つの権利で構成されていると考えられています。この2つの権利は、肖像権の対象となる人物(一般人か有名人か)によって、認められる範囲が異なります。
プライバシー権(人格権) プライバシー権とは、個人の姿や情報など、私生活上の事柄をみだりに公開されないように守るための権利です。自分の姿を無断で撮影されたり、無許可でインターネット上に公開されたりした場合に、このプライバシー権の侵害となる可能性があります。 重要な点は、このプライバシー権は、有名人だけでなく、私たち「一般人」にも広く認められている権利であるということです。つまり、あなたが有名人でなくても、あなたの顔や姿が勝手に撮影されたり公開されたりすれば、肖像権のうちプライバシー権を侵害されたとして、法的な対処を検討できる可能性があるのです。
パブリシティ権(財産権) 一方、パブリシティ権とは、著名人が持つ経済的な利益や顧客吸引力を財産と考え、その財産を独占的に利用できる権利を指します。著名な芸能人やスポーツ選手などは、その存在自体に大きな経済的価値があります。パブリシティ権は、このような「顧客吸引力」が無断で商品やサービスの宣伝などに利用されないよう守るための権利です。 パブリシティ権は、主に著名人に認められる権利であり、原則として一般人には認められません。一般人の肖像権侵害で問題となるのは、主にプライバシー権(人格権)の侵害ということになります。
肖像権には、自分の顔や容姿(肖像)をみだりに撮影されない「撮影拒否権」、撮影された肖像を他人に勝手に使用・公表されない「使用・公表の拒絶権」、そして(著名人のみですが)肖像の利用に対する財産的利益を保護する「パブリシティ権」が含まれていると考えられています。これらの権利が侵害された場合に、**「肖像権 侵害」**という問題が発生します。
これが「肖像権侵害 」にあたる行為:具体的なケースと判断基準
どのような行為が、肖像権を侵害する**「肖像権 侵害」にあたるのでしょうか?肖像権は法律に明文化されていないため、侵害にあたるかどうかの明確な基準は定められていません。しかし、これまでの判例の積み重ねにより、「被撮影者の受忍限度内か」という観点から総合的に判断される**という考え方が確立されています。
肖像権侵害となりうる行為とは
肖像権は自分の顔や姿態をみだりに「撮影」や「公表」などされない権利です。したがって、無断で顔写真を撮影する行為や、撮影したものをインターネット上で公開する行為は、肖像権侵害行為になり得ると考えられています。
さらに、自分で撮影したものではない写真であっても、その写真を被撮影者の承諾なしに他のサイトに無断で転載する行為も、肖像権を侵害するおそれがあります。実際、インターネット上ですでに公開されている写真について、被撮影者の承諾なしにその写真を他のサイトに無断で転載する行為は、肖像権を侵害すると判断された事例があります。
肖像権侵害の判断基準:「受忍限度」とは
肖像権侵害にあたるかどうかは、ケースバイケースで判断されます。その際に最も重視されるのが、**「被撮影者(写真や動画に映っている本人)の受忍限度内か」**という観点です。
「受忍限度」とは、「社会通念上、一般人が我慢すべきとされる被害の程度」を指します。被害者にとって「耐えられない」と感じることでも、法的な見解では判断が分かれることは起こり得ます。
肖像権侵害にあたるかどうか、つまり人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるかどうかを判断するにあたっては、最高裁判所の判例 が示した以下の様々な要素が総合的に考慮されます。
肖像権侵害 の判断で考慮される主な基準
個人(被写体)が特定可能か 写真や動画から、写っている人物が誰であるかを客観的に判別できるかどうかが重要な要素です。
侵害性が高まるケース:顔がはっきり映っている、モザイクなどの加工がない。
侵害性が低くなるケース:人物の特定が困難である(はっきり映っていない、モザイクなどで隠されている、たくさんの人物が映っていて一人一人を識別できないなど)。顔が映っていない場合や 、手や体の一部だけであったり、大勢の群衆の中に映り込んでいたりする場合も、個人が特定できないため肖像権侵害とはいえない可能性が高いでしょう。
拡散性が高いか 公開された場所や媒体によって、情報がどれだけ広まる可能性があるかが判断されます。
侵害性が高まるケース:SNSなど、誰もが見れる場所で公開された場合。インターネット上に公開されると、不特定多数の目に触れ、容易に拡散される可能性があるため、肖像権侵害が認められる可能性が高まります。
侵害性が低くなるケース:DMでのやり取りなど、非公開の場での共有。
撮影場所がどこか 撮影が行われた場所が、私的な空間か公共の場所かによって判断が分かれます。
侵害性が高まるケース:自宅内、病院、ホテル個室内、避難所内など、私的な空間にいる様子を撮影、公開された場合。他人の目にさらされない私的空間での姿を撮影・公表する行為は、被撮影者により著しい精神的苦痛を与える可能性があるためです。
侵害性が低くなるケース:公道、駅、公園、イベント会場など、多くの人が出入りする公共の場所での撮影。公共の場では、一般的に自分の肖像を他人に見られることを予期または許容していることが多いと考えられます。ただし、公共の場であっても、特定の人物に焦点が当たっていたり、隠し撮りであったりするなど、態様によっては侵害性が上がることがあります。
撮影、公開許可の有無 被撮影者本人の同意があったかどうかが基本的な判断要素です。
侵害性が高まるケース:撮影、公開の許可を出していない場合。
侵 害性が低くなるケース:撮影、公開の許可を出した場合。ただし、撮影については許可していても、インターネットへの公開は許可していないというケースもあるので注意が必要です。もし「ネット上への公開については許可していない」ということであれば、肖像権侵害の可能性があり、撮影者に掲載を取りやめてもらうよう求めることができます。
上記の4つの基準に加えて、最高裁判例が示した基準では、以下の要素も総合的に考慮されます。
被撮影者の社会的地位:写真に写っている人が一般私人であれば侵害性が上がり、公人や公共の利害にかかる人物であれば侵害性が下がります。例えば、刑事事件の被疑者・被告人や、テレビ番組に出演する弁護士など、公的な活動をする人物の場合は、肖像が報道されることに対する受忍の範囲が広がる場合があります。
被撮影者の活動内容:被撮影者がどのような状況にあるときに撮影されたものかによって侵害性が判断されます。私生活や他人に知られたくない状況(水着・泥酔・居眠り・身柄拘束を受けている状態など)を撮影した場合は侵害性が上がり、公務や公的行事(公開イベントでのスピーチ、オリンピック参加中、街頭デモなど)であれば侵害性が下がります。
撮影の目的:何のために撮影・公表されたかも考慮されます。報道番組やファッション雑誌掲載など、正当な目的があれば侵害性が下がる可能性がありますが、当初の目的と剥離している場合や、公開を前提としないプライベート写真を公表した場合は侵害性が上がります。
撮影・公表の態様:被撮影者の写り方や撮影状況、公開され方が判断に影響します。手でカメラを遮るなど、撮影を拒絶する意思表示をしている場合や、公共の場でも特定の人物に焦点が当たっている場合、隠し撮りなど被撮影者が撮影された認識がない場合は侵害性が上がります。逆に、カメラに向かって笑顔でポーズをとるなど撮影を許容していると認められる場合や、多人数が写っていて特定の人に焦点が当たっていない場合は侵害性が下がります。
撮影・公表の必要性:その写真や動画を撮影・公表することにどれだけの必要性があったか。必要性が高ければ侵害性が下がり、必要性が低ければ侵害性が上がります。例えば、報道目的であっても、被撮影者に不利益を与えてまで報道する必要性がないと判断されれば、肖像権を侵害する行為とみなされることがあります。
これらの要素を総合的に考慮し、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上、一般人が我慢すべき限度 を超えているか、つまり**「受忍限度」を超えているか**によって、肖像権侵害が成立するかどうかが判断されます。
肖像権侵害になる可能性が高い具体的なケース
上記の判断基準を踏まえると、以下のようなケースは肖像権 侵害にあたる可能性が高いといえます。
顔がはっきり映っている写真の公開:個人が特定できる場合。
SNSなど、誰もが見れる場所で公開された:拡散性が高い場合。友人や恋人と一緒に撮影したプライベート写真を、一緒に写っている本人の許可なくSNSにアップロードした場合などです。
自宅内や病院など、私的な空間にいる様子を撮影、公開された:撮影場所のプライベート性が高い場合。
撮影、公開の許可を出していない:本人の同意がない場合。
撮影を拒絶する意思表示(口頭、カメラを遮るなど)をしたにも関わらず撮影された:撮影の態様が悪質である場合。
肖像権侵害にあたりにくい具体的なケース
逆に、以下のようなケースでは、肖像権侵害を主張することが難しくなる傾向があります。
人物の特定が困難である:はっきり映っていない、モザイクなどで隠されている、たくさんの人物が映っていて誰であるか判別できない場合。ただし、画像の解像度を上げれば判別できる場合は肖像権侵害が認められる可能性もあります。
DMでのやり取り(非公開の場):拡散性が低い場合。
公道や駅、イベント会場など、多くの人が出入りする場所での撮影:撮影場所の公共性が高い場合。公共の場では、ある程度他人に姿を見られることを許容していると考えられるためです。ただし、公共の場であっても、特定の個人に焦点を当てた撮影や、撮影拒否の意思表示を無視した場合などは侵害となり得ます。
撮影、公開の許可を出した:本人の同意がある場合。
出演者やイベントスタッフのように、業務や当事者として写真に写っていた