肖像権侵害とは?写真や動画を無断で使用された場合の基準、対処法、慰謝料を徹底解説
2025年4月29日
近年、スマートフォンの普及やSNSの隆盛により、誰もが気軽に写真や動画を撮影・共有できるようになりました。しかし、その一方で、知らぬ間に自分の顔写真や姿態がインターネット上に公開されたり、悪用されたりするケースも増えています。このようなトラブルで問題となるのが、「肖像権侵害」です。
「肖像権 侵害」は、一般の方にとっても決して他人事ではありません。あなたが被害者になる可能性もあれば、意図せず加害者になってしまう可能性もあります。自分の権利を守り、また他者の権利を侵害しないためにも、肖像権侵害について正しく理解しておくことが非常に重要です。
この記事では、肖像権とは何かという基本的なことから、どのような行為が肖像権侵害にあたるのか、その判断基準、万が一被害に遭ってしまった場合の具体的な対処法、請求できる可能性のある慰謝料の相場を中心に徹底的に解説します。この記事を読むことで、以下の点が理解できるでしょう。
肖像権とはどんな権利なのか
肖像権侵害となる行為とは
肖像権侵害の基準はどのように判断されるのか
肖像権を侵害された場合の対処法
一般人でも肖像権侵害を訴えることはできるのか
さあ、一緒に肖像権侵害の世界を深く掘り下げていきましょう。
肖像権の基本を知る:定義、根拠、そして2つの重要な権利
まず、**「肖像権 侵害」**を理解する上で不可欠な、肖像権そのものの定義と基本的な枠組みについて解説します。
肖像権とは何か?その定義と根拠
肖像権とは、自分の顔や姿態をみだりに「撮影」されたり、「公表」されたりしない権利を指します。これは、個人の人格的な利益に関わる非常に重要な権利です。
特筆すべきは、この肖像権が日本の法律で明確に条文として定められているわけではないという 点です。しかし、法的に保護されるべき権利として、これまでの裁判所の判例によって確立されてきました。肖像権は、日本国憲法第13条が保障する「幸福追求権」から派生した権利であると考えられています。
肖像権を構成する2つの重要な権利:プライバシー権とパブリシティ権
肖像権は、主にプライバシー権(人格権)とパブリシティ権(財産権)という、性質の異なる2つの権利で構成されていると考えられています。この2つの権利は、肖像権の対象となる人物(一般人か有名人か)によって、認められる範囲が異なります。
プライバシー権(人格権 ) プライバシー権とは、個人の姿や情報など、私生活上の事柄をみだりに公開されないように守るための権利です。自分の姿を無断で撮影されたり、無許可でインターネット上に公開されたりした場合に、このプライバシー権の侵害となる可能性があります。 重要な点は、このプライバシー権は、有名人だけでなく、私たち「一般人」にも広く認められている権利であるということです。つまり、あなたが有名人でなくても、あなたの顔や姿が勝手に撮影されたり公開されたりすれば、肖像権のうちプライバシー権を侵害されたとして、法的な対処を検討できる可能性があるのです。
パブリシティ権(財産権) 一方、パブリシティ権とは、著名人が持つ経済的な利益や顧客吸引力を財産と考え、その財産を独占的に利用できる権利を指します。著名な芸能人やスポーツ選手などは、その存在自体に大きな経済的価値があります。パブリシティ権は、このような「顧客吸引力」が無断で商品やサービスの宣伝などに利用されないよう守るための権利です。 パブリシティ権は、主に著名人に認められる権利であり、原則として一般人には認められません。一般人の肖像権侵害で問題となるのは、主にプライバシー権(人格権)の侵害ということになります。
肖像権には、自分の顔や容姿(肖像)をみだりに撮影されない「撮影拒否権」、撮影された肖像を他人に勝手に使用・公表されない「使用・公表の拒絶権」、そして(著名人のみですが)肖像の利用に対する財産的利益を保護する「パブリシティ権」が含まれていると考えられています。これらの権利が侵害された場合に、**「肖像権 侵害」**という問題が発生します。
これが「肖像権侵害」にあたる行為:具体的なケースと判断基準
どのような行為が、肖像権を侵害する**「肖像権 侵害」にあたるのでしょうか?肖像権は法律に明文化されていないため、侵害にあたるかどうかの明確な基準は定められていません。しかし、これまでの判例の積み重ねにより、「被撮影者の受忍限度内か」という観点から総合的に判断される**という考え方が確立されています。
肖像権侵害となりうる行為とは
肖像権は自分の顔や姿態をみだりに「撮影」や「公表」などされない権利です。したがって、無断で顔写真を撮影する行為や、撮影したものをインターネッ ト上で公開する行為は、肖像権侵害行為になり得ると考えられています。
さらに、自分で撮影したものではない写真であっても、その写真を被撮影者の承諾なしに他のサイトに無断で転載する行為も、肖像権を侵害するおそれがあります。実際、インターネット上ですでに公開されている写真について、被撮影者の承諾なしにその写真を他のサイトに無断で転載する行為は、肖像権を侵害すると判断された事例があります。
肖像権侵害の判断基準:「受忍限度」とは
肖像権侵害にあたるかどうかは、ケースバイケースで判断されます。その際に最も重視されるのが、**「被撮影者(写真や動画に映っている本人)の受忍限度内か」**という観点です。
「受忍限度」とは、「社会通念上、一般人が我慢すべきとされる被害の程度」を指します。被害者にとって「耐えられない」と感じることでも、法的な見解では判断が分かれることは起こり得ます。
肖像権侵害にあたるかどうか、つまり人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるかどうかを判断するにあたっては、最高裁判所の判例 が示した以下の様々な要素が総合的に考慮されます。
肖像権侵害の判断で考慮される主な基準
個人(被写体)が特定可能か 写真や動画から、写っている人物が誰であるかを客観的に判別できるかどうかが重要な要素です。
侵害性が高まるケース:顔がはっきり映っている、モザイクなどの加工がない。
侵害性が低くなるケース:人物の特定が困難である(はっきり映っていない、モザイクなどで隠されている、たくさんの人物が映っていて一人一人を識別できないなど)。顔が映っていない場合や、手や体の一部だけであったり、大勢の群衆の中に映り込んでいたりする場合も、個人が特定できないため肖像権侵害とはいえない可能性が高いでしょう。
拡散性が高いか 公開された場所や媒体によって、情報がどれだけ広まる可能性があるかが判断されます。
侵害性が高まるケース:SNSなど、誰もが見れる場所で公開された場合。インターネット上に公開されると、不特定多数の目に触れ、容易に拡散される可能性があるため、肖像権侵害が認められる可能性が高まります。
侵害性が低くなるケース:DMでのやり取りなど、非公開の場での共有。
撮影場所がどこか 撮影が行われた場所が、私的な空間か公共の場所かによって判断が分かれます。
侵害性が高まるケース:自宅内、病院、ホテル個室内、避難所内など、私的な空間にいる様子を撮影、公開された場合。他人の目にさらされない私的空間での姿を撮影・公表する行為は、被撮影者により著しい精神的苦痛を与える可能性があるためです。
侵害性が低くなるケース:公道、駅、公園、イベント会場など、多くの人が出入りする公共の場所での撮影。公共の場では、一般的に自分の肖像を他人に見られることを予期または許容していることが多いと考えられます。ただし、公共の場であっても、特定の人物に焦点が当たっていたり、隠し撮りであったりするなど、態様によっては侵害性が上がることがあります。
撮影、公開許可の有無 被撮影者本人の同意があったかどうかが基本的な判断要素です。
侵害性が高まるケース:撮影、公開の許可を出していない場合。
侵害性が低くなるケース:撮影、公開の許可を出した場合。ただし、撮影については許可していても、インターネットへの公開は許可していないというケースもあるので注意が必要です。もし「ネット上への公開については許可していない」ということであれば、肖像権侵害の可能性があり、撮影者に掲載を取りやめてもらうよう求めることができます。
上記の4つの基準に加えて、最高裁判例が示した基準では、以下の要素も総合的に考慮されます。
被撮影者の社会的地位:写真に写っている人が一般私人であれば侵害性が上がり、公人や公共の利害にかかる人物であれば侵害性が下がります。例えば、刑事事件の被疑者・被告人や、テレビ番組に出演する弁護士など、公的な活動をする人物の場合は、肖像が報道されることに対する受忍の範囲が広がる場合があります。
被撮影者の活動内容:被撮影者がどのような状況にあるときに撮影されたものかによって侵害性が判断されます。私生活や他人に知られたくない状況(水着・泥酔・居眠り・身柄拘束を受けている状態など)を撮影した場合は侵害性が上がり、公務や公的行事(公開イベントでのスピーチ、オリンピック参加中、街頭デモなど)であれば侵害性が下がります。
撮影の目的:何のために撮影・公表されたかも考慮されます。報道番組やファッション雑誌掲載など、正当な目的があれば侵害性が下がる可能性がありますが、当初の目的と剥離している場合や、公開を前提としないプライベート写真を公表した場合は侵害性が上がります。
撮影・公表の態様:被撮影者の写り方や撮影状況、公開され方が判断に影響します。手でカメラを遮るなど、撮影を拒絶する意思表示をしている場合や、公共の場でも特定の人物に焦点が当たっている場合、隠し撮りなど被撮影者が撮影された認識がない場合は侵害性が上がります。逆に、カメラに向かって笑顔でポーズをとるなど撮影を許容していると認められる場合や、多人数が写っていて特定の人に焦点が当たっていない場合は侵害性が下がります。
撮影・公表の必要性:その写真や動画を撮影・公表することにどれだけの必要性があったか。必要性が高ければ侵害性が下がり、必要性が低ければ侵害性が上がります。例えば、報道目的であっても、被撮影者に不利益を与えてまで報道する必要性がないと判断されれば、肖像権を侵害する行為とみなされることがあります。
これらの要素を総合的に考慮し、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上、一般人が我慢すべき限度を超えているか、つまり**「受忍限度」を超えているか**によって、肖像権侵害が成立するかどうかが判断されます。
肖像権侵害になる可能性が高い具体的なケース
上記の判断基準を踏まえると、以下のようなケースは肖像権 侵害にあたる可能性が高いといえます。
顔がはっきり映っている写真の公開:個人が特定できる場合。
SNSなど、誰もが見れる場所で公開された:拡散性が高い場合。友人や恋人と一緒に撮影したプライベート写真を、一緒に写っている本人の許可なくSNSにアップロードした場合などです。
自宅内や病院など、私的な空間にいる様子を撮影、公開された:撮影場所のプライベート性が高い場合。
撮影、公開の許可を出していない:本人の同意がない場合。
撮影を拒絶する意思表示(口頭、カメラを遮るなど)をしたにも関わらず撮影され た:撮影の態様が悪質である場合。
肖像権侵害にあたりにくい具体的なケース
逆に、以下のようなケースでは、肖像権侵害を主張することが難しくなる傾向があります。
人物の特定が困難である:はっきり映っていない、モザイクなどで隠されている、たくさんの人物が映っていて誰であるか判別できない場合。ただし、画像の解像度を上げれば判別できる場合は肖像権侵害が認められる可能性もあります。
DMでのやり取り(非公開の場):拡散性が低い場合。
公道や駅、イベント会場など、多くの人が出入りする場所での撮影:撮影場所の公共性が高い場合。公共の場では、ある程度他人に姿を見られることを許容していると考えられるためです。ただし、公共の場であっても、特定の個人に焦点を当てた撮影や、撮影拒否の意思表示を無視した場合などは侵害となり得ます。
撮影、公開の許可を出した:本人の同意がある場合。
出演者やイベントスタッフのように、業務や当事者として写真に写っていた:撮影や公表を一定程度受忍すべき場合があると考えられるためです。ただし、そのイベントが社会的偏見に繋がり得る内容であるなど、一般的に公表を望まないものについては、肖像権侵害が認められる可能性もあります。
「撮影するだけ」でも肖像権侵害?
「肖像権 侵害」というと「公開」のイメージが強いかもしれませんが、許可なく勝手に撮影する行為自体も肖像権の侵害となり得ます。
また、撮影については許可していても、インターネットへの公開は許可していないというケースもありますので注意が必要です。もし撮影は許可したがネット上への公開は許可していないのに公開されてしまった場合は、肖像権侵害の可能性があり、撮影者に掲載を取りやめてもらうよう求めることができます。
顔が映っていないと肖像権の侵害とはいえない?
肖像権は「顔や姿態」に関する権利ですが、顔が映っていないときには、肖像権の侵害にはあたりません。
また、客観的に見て誰なのかが判別できずに個人の特定ができない場合も、誰のことか判断できないため肖像権侵害にはあたらないです。手や目など顔や体の一部だけであったり、大勢の群衆の中に映り込んでいたりという場合も、個人特定が困難であれば肖像権の侵害とまでは言えない可能性が高いでしょう。
ネットに裸の写真が掲載されたら?
もし、あなたの裸の写真が同意なくインターネット上に掲載されてしまった場合は、それは肖像権侵害にとどまらない、より深刻な問題である可能性が高いです。いわゆるリベンジポルノや撮影罪(盗撮)の被害にあっている可能性があるでしょう。
これらの行為は犯罪にあたるため、肖像権侵害としてではなく、犯罪の被害者として早急に警察に相談してください。リベンジポルノへの対応については、関連する情報源も参考にすると良いでしょう。
SNS特有の肖像権トラブル:無断転載・なりすまし
インターネット、特にSNSは、**「肖像権 侵害」**が非常に多く発生する場所です。SNS上には多くの画像が投稿されていますが、その中で、顔写真などが無断で使用、公開されてしまうケースが後を絶ちません。ここでは、SNSでよく見られる肖像権トラブルに焦点を当てて解説します。
SNSに掲載した写真を無断転載された場合も肖像権侵害が認められる?
SNSに自分で投稿した写真だからといって、他人が自由に使えるわけではありません。SNS 上にすでに公開した写真でも、本人(被撮影者)の許可なくその写真を無断転載する行為は、肖像権を侵害すると判断される可能性があります。
実際、ネット上で すでに公開されている写真について、被撮影者の承諾なしにその写真を他のサイトに無断で転載する行為は肖像権を侵害すると判断された事例があります。
ご自身がSNSにアップした顔写真が無断転載されたり、リツイート等で拡散されたりした場合は、被害が拡大する前になるべく早く対処することが重要です。
SNSアイコンに勝手に顔写真を使われたら肖像権侵害?
ご自身の顔写真が、見知らぬ人に勝手にSNSのプロフィール画像として使われてしまうといったケースも発生しています。こうした行為は、場合によっては肖像権侵害にあたる可能性があります。
これは「なりすまし」のひとつでもあり、悪質なケースは放置することで深刻な被害を受ける可能性もあります。なりすまし行為についても、肖像権侵害と同様に適切な対応が必要です。
肖像権侵害の被害にあったら:具体的な対処法
万が一、あなたの肖像権が侵害されてしまったら、どのように対処すれば良いのでしょうか? 自身の画像が無断で使用されてしまった場合、そのまま放置するとどんどん拡散されたり、さらに悪用されたりする可能性が高まります。そのため、早めに適切な対処を講じることが大切です。
肖像権を侵害された場合の主な対処法としては、以下の方法が考えられます。
民事上の責任を追及する
SNSや掲示板など運営会社に削除を依頼する
ここでは、それぞれの対処法について具体的に解説します。
ステップ①:侵害行為の証拠を残す
肖像権を侵害する内容の投稿や写真を見つけたら、その場ですぐに証拠を残してください。権利侵害の証拠がなければ、 後で法的措置を講じようとしても困難となるためです。すぐに証拠を残さなければ、投稿者が投稿を削除したり、他のユーザーがSNS運営者に通報したりして、問題の投稿が消えてしまうかもしれません。
SNS上での問題投稿の証拠は、スクリーンショットの撮影で残すことが一般的です。スクリーンショットを撮る際は、以下の事項が漏れなく含まれるように撮影してください。
肖像権侵害にあたると思われる投稿の内容(写真や動画、関連する文章など)
その投稿がなされた日時
その投稿と関連する前後の投稿やコメント
投稿の固有URL
投稿をしたアカウントの名称、ユーザー名、URL
スマートフォンのスクリーンショットではURLの表記が不完全となることがあるため、可能な限りパソコンからの撮影をおすすめします。
注意点として、この段階で投稿者に直接削除を求めたり、相手と直接対峙したりするような行為は避けたほうがよいでしょう。相手に直接コンタクトを取ると、肖像権侵害や誹謗中傷がエスカ レートするおそれがあるためです。また、言い返した内容によっては、後で法的措置をとるにあたって不利となったり、「誹謗中傷」などとして相手方から反対に法的措置をとられたりするおそれも生じます。
ステップ②:SNSや掲示板などの運営会社に削除依頼する
自身の画像が無断で使用されている場合、そのままにしておくと別の場所に拡散されるなどの危険もありますので、早めにサイトやSNSの運営会社に削除依頼をすることが大切です。
多くのSNSや掲示板の運営会社は、規約により肖像権を侵害する投稿を禁止しています。そのため、規約違反と認められれば削除される可能性があります。
削除依頼は、サイト内の問い合わせフォームや、ヘルプページ、通報ボタンなどから行うことが多いです。サイト によっては侵害権利の主張をしなければならないこともあります。具体的な削除依頼方法については、各サイトの規約やヘルプページを確認するか、関連する情報を参考にしてください。
投稿者本人やサイト管理者が任意の削除に応じない場合には、裁判所の仮処分手続きを利用して削除を求める方法もあります。仮処分は、迅速な判断を求めることができる手続きです。
ステップ③:弁護士へ相談する(早期が鍵)
肖像権を侵害する投稿の証拠を残したら、できるだけ早期に、インターネット上でのトラブル対応などにくわしい弁護士へご相談ください。
肖像権侵害の被害にあった方は、ひとまず法律事務所への相談がおすすめです。一般人の方であっても肖像権侵害(プライバシーの侵害)を訴えることは可能です ので、状況にあわせてどういう対策を講じるべきか、ネットトラブルにくわしい専門家に聞いてみましょう。無料の相談窓口を設置している法律事務所もあります。
弁護士へ相談することで、ご自身のケースが受忍限度を超えていると判断される可能性があるのか助言をもらえます。また、そのケースにおける損害賠償請求の可否や見込み額などのアドバイスを受けられます。
実際に法的措置を講じようにも、ご自身で肖像権侵害に対する手続きを進めることは容易ではありません。弁護士へ相談することで、その後の対応の見通しが立てやすくなるほか、依頼した場合はその後の対応を任せられるため安心です。
早期の相談をおすすめする理由は、投稿のログは永久に保存されるわけではなく、一定期間が経過することで消えてしまうためです。ログの保存期間はプロバイダによって異なるものの、おおむね3か月から6か月程度とされています。保存期間を過ぎてしまうと、もはや相手を特定することは困難となります。投稿者の特定手続きを進めるためにも、できるだけ早期にご相談ください。
ステップ④:投稿者を特定する(匿名・偽名の場合)
SNSでの**「肖像権 侵害」**は、匿名や偽名で行われることが少なくありません。その場合は、損害賠償請求をする前に、相手の特定が必要です。相手が誰であるのかわからなければ、損害賠償請求をすることが困難であるためです。
ネット上の匿名の相手を特定するためには、発信者情報開示請求という法的手続きが必要になり、この手続きには弁護士のサポートが有効です。
投稿者の特定は、一般的に次の2つのステップで行います。SNSの運営者は、投稿者の住所や氏名などの情報までを直接把握していないことが多いためです。
肖像権侵害の舞台となったSNSの運営者に請求し、投稿等のIPアドレスやタイムスタンプなどの情報を入手する
投稿者が接続に使ったプロバイダに請求し、契約者の住所や氏名などの情報を入手する
これらの請求は、SNS運営者や接続プロバイダに直接行っても、任意での開示に応じてもらえることはほとんどありません。そのため、裁判上で発信者情報開示請求をすることが一般的です。
なお、2022年10月に施行された改正プロバイダ制限責任法により、上記の2つのステップを一つの手続きでまとめて行える「発信者情報開示命令」が創設されました。ただし、新設された手続きによって期間が大きく短縮できる場合がある一方で、プロバイダ側の対応によってはむしろ従来よりも時間がかかる可能性もあります。そのため、いずれの手続きを選択するかは、弁護士に相談したうえで慎重に検討してください。
発信者情報開示請求を成功させるためには、いくつかのポイントがあり、とくに「情報保存期間」に注意が必要です。前述の通り、ログは永久に保存されないため、できるだけ早く手続きを開始する必要があります。
ステップ⑤:損害賠償請求をする
肖像権侵害をした投稿者が特定できたら、その 投稿者に対して損害賠償請求をします。
肖像権の侵害に関しては、民法第709条の不法行為を根拠として、損害賠償請求や問題の投稿の差し止め請求が可能です。民法第709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。肖像権は、この条文でいう「法律上保護される利益」に該当すると考えられています。
損害賠償請求で主に問題となるのは、精神的苦痛に対する慰謝料です。後述しますが、肖像権侵害に対する慰謝料の相場は、およそ10万円~50万円程度とされています。
損害賠償請求はいきなり裁判を申し立てるのではなく、まずは弁護士から書面を送るなどして、裁判外での解決を図ることが一般的です。この時点で相手が請求額を支払い謝罪に応じた場合には、裁判に至ることなく解決となります。この場合は、示談金の額などとともに、再度肖像権侵害をしない旨などを記載した示談書を取り交わすことが多いでしょう。
一方、相手が請求に応じない場合や投稿の事実を否定するなど不誠実な態度をとる場合には、裁判上での請求へと移行します。裁判上の請求となった場合は、裁判所が損害賠償請求の可否やその適正額を判断します。裁判所が損害賠償を認容したにもかかわらず相手が期限までに支払わなかった場合は、差し押さえなど強制執行の対象となります。
実際に損害賠償請求を行う場合には、不法行為の具体的な内容と、損害という結果発生の証明に加え、それらをつなぐ因果関係の説明が必要とされます。そのため、民事事件をあつかい、交渉ごとに慣れている弁護士に任せることがおすすめです。
差止請求
写真や映像は、いったん公表されると回復が不可能または著しく困難です。もし、許可なく撮影された写真や映像がこれから公表または放送される予定の段階であれば、事前に差し止め請求を行う方法があります。これにより、被害の発生や拡大を防ぐことができます。
ただし、個人の肖像権を侵害する場合であっても、報道目的など表現の自由や報道の自由として相当と認められる範囲内においては、違法性が阻却されることがあります。そのため、事前差し止めを検討する場合は、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
肖像権侵害に刑事罰はあるのか?
肖像権 侵害という行為自体には、刑法上の罰則は設けられていません。つまり、肖像権侵害をしただけでは、警察に逮捕されたり、前科が付いたりすることはないということです。
しかし、SNSなどでの**「肖像権 侵害」が、名誉毀損など他の犯罪とセットで行われることがあります。たとえば、「この人は不倫している」などとして顔写真をSNSに投稿しても「肖像権侵害 」単独では刑罰の対象となることはない一方、「名誉毀損罪」として罰則の対象となる可能性はあります**。名誉毀損罪の法定刑は、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です(刑法第230条)。
また、前述の通り、ネットに裸の写真が載せられてしまった場合は、肖像権侵害にとどまらず、リベンジポルノや撮影罪といった犯罪行為に該当する可能性が高いです。これらの犯罪については罰則が設けられていますので、この場合は早急に警察へ相談してください。
肖像権侵害による損害賠償(慰謝料)の相場はいくらくらい?
肖像権侵害の被害に遭った場合、加害者に対して精神的苦痛に対する損害賠償、すなわち慰謝料を請求できる可能性があります。では、肖像権侵害による損害賠償(慰謝料)の相場は、一般的にどのくらいなのでしょうか?
肖像権侵害のみを不法行為とする損害賠償(慰謝料)の相場は、およそ10万円~50万円程度とされています。具体的な金額は、個々の事例や交渉次第で様々です。
ただし、これはあくまで一般的な相場であり、事案によってはさらに高額な損害賠償が認められる可能性があります。例えば、以下のような場合は、慰謝料が高額になる傾向があります。
侵害行為が悪質である場合
肖像権侵害だけ でなく、名誉毀損など他の権利侵害も同時に行われた場合。例えば、虚偽の内容のコメントや記事と共に写真を公表された場合は、名誉権の侵害を含め、相場以上の慰謝料が認められる可能性があります。
肖像権侵害によって財産的な損害が生じている場合
被害の内容や程度、期間、発生した状況、被害者の立場、加害者の態度など、様々な要素が総合的に考慮されます。
適正な損害賠償額は事案によって異なるため、ご自身のケースでどのくらいの賠償額が見込めるのかを知るためには、弁護士へ相談することをおすすめします。
慰謝料請求にあたっては、不法行為の具体的な内容と、損害という結果発生の証明に加え、それらをつなぐ因果関係の説明が必要とされます。また、前述の通り、肖像権侵害での慰謝料請求にあたっては、相手方を特定している必要があります。ネット上の匿名の相手を特定するためには発信者情報開示請求が必要になり、この手続きには弁護士のサポートが有効です。
肖像権侵害が認められた具体的な判例を知る
「肖像権 侵害」が実際に裁判でどのように判断されているのかを理解するために、いくつかの代表的な判例を見てみましょう。これらの判例は、「受忍限度」という基準が具体的にどのように適用されるのかを示しています。
病院内撮影事件(東京地判平成2年5月22日)
事案の概要:大手消費者金融業の会長が入院している事実が写真週刊誌に報じられ、病院内の廊下で車椅子に乗って移動中の姿が掲載されたことに対し、肖像権およびプライバシー侵害として損害賠償が請求されたケース。
裁判所の判断:裁判所は、病院内は、完全な私生活が保障されてしかるべき私宅と同様に考えるべきであると述べました。そして、報道する側には事実を丹念に伝える方法があったにも関わらず、あえて個人のプライベート空間である病院内で写真を撮影・掲載する必要性は認めがたいとして、写真撮影・掲載が違法な肖像権およびプライバシー侵害にあたると判断しました。この判例は、撮影場所のプライベート性の高さが判断に大きく影響した事例と言えます。
30年前の水着写真事件(東京地判平成6年1月31日)
事案の概要:夫を殺害した容疑で逮捕された女性が、約30年前にコンテスト出場時に雑誌に掲載された水着姿の写真が、逮捕報道の際に週刊誌に掲載されたことに対し、肖像権侵害として損害賠償が請求されたケース。
裁判所の判断:裁判所は、逮捕されたことが公共の利害に関する事実であり、報道で写真を掲載すること自体は許されるとしても、30年前の水着姿の写真まで掲載する必要性や相当性は認められないと述べました。その上で、肖像権を侵害にあたると判断しました。この判例は、 報道における「肖像権 侵害」の判断において、掲載される写真の「必要性」が重視された事例と言えます。
ストリートファッション事件(東京地判平成17年9月27日)
事案の概要:胸に「SEX」とデザインされた服を着て銀座の横断歩道を歩いていた女性の全身像が撮影され、ファッション協会のウェブサイトに掲載されたところ、そのリンクと共に2ちゃんねるに誹謗中傷コメントが書き込まれたことに対し、肖像権侵害などが主張されたケース。
裁判所の判断:裁判所は、写真が女性の全身像に焦点を絞り、容貌もはっきり分かる大写しであること、着用していた服のデザイン、そして一般人であればこのような写真を撮影・掲載されることを望まない心理的な負担を考慮しました。そして、肖像権を侵害すると判断しました。この判例は、公共の場での撮影であっても、撮影の態様(特定個人への焦点、アップでの撮影など)や被写体の状況、そしてそれが与える心理的負担などが考慮され、「受忍限度」を超えるかが判断された事例と言えます。
Instagramストーリー動画事件(東京地判令和2年9月24 日)
事案の概要:夫が蕎麦屋で撮影した妻の動画をInstagramのストーリーに投稿したところ(24時間限定で公開)、氏名不詳の第三者がその動画の一部を画像として保存し、夫妻に無断でインターネット上のウェブサイトに投稿したことに対し、肖像権侵害を理由に発信者情報開示請求がなされたケース。
裁判所の判断:裁判所は、元動画が24時間限定のストーリーとして投稿され、継続的な公開は想定されていなかったこと、妻が無断利用を許諾していないこと、妻が私人であること、画像が夫婦の私生活の一部であること、そして夫の著作権を侵害して複製・公衆送信されたものであり、投稿の態様は相当ではなく、画像の利用に正当な目的や必要性も認め難いことを指摘しました。これらの点を総合的に考慮し、氏名不詳者による画像の利用行為が社会生活上受忍すべき限度を超えるものであり、肖像権を侵害すると認めました。この判例は、一時的な公開を意図したプライベートな写真・動画であっても、それを無断で転載・拡散する行為が「肖像権 侵害」にあたりうることを示した事例と言えます。
これらの判例から、「肖像権 侵害」は単に顔が写っているかどうかだけでなく、撮影・公開された状況、場所、目的、態様、必要性など、様々な要素を総合的に判断し、「受忍限度」を超えるかどうかが鍵となることが分かります。
一人で悩まず専門家へ:弁護士に相談するメリット
肖像権侵害の被害に遭ってしまったとき、どうすれば良いのか分からず一人で悩んでしまう方も多いかもしれません。しかし、自身の画像が無断で使用されてしまった場合、そのまま放置するとどんどん拡散されたり、さらに悪用されたりする可能性が高まります。そのため、一人で悩まず、専門家に相談することが非常に重要です。
特に、肖像権侵害の問題は法律が関わるため、法律事務所の弁護士に相談することをおすすめします。
一般人の方であっても肖像権侵害(プライバシーの侵害)を訴えることは可能です。ネットトラブルにくわしい専門家である弁護士に相談することで、以下のような様々なメリットが得られます。
ご自身のケースが法的に「肖像権 侵害」にあたる可能性が高いのか、受忍限度を超えていると判断される見込みがあるのかなど、専門的な観点から助言を得られる。
被害状況や相手の状況に応じた、最適な対処法についてアドバイスを受けられる。削除依頼、発信者情報開示請求、損害賠償請求など、様々な選択肢の中から、どの方法を取るべきか判断できます。
複雑な法的手続き(証拠保全、削除依頼、発信者情報開示請求、損害賠償請求など)を代行してもらえる。ご自身でこれらの手続きを行うことは非常に負担が大きく、専門知識も必要ですが、弁護士に任せることで安心して手続きを進められます。
相手との交渉や連絡を任せられる。前述の通り、相手と直接やり取りすることはリスクを伴いますが、弁護士に依頼すれば、相手との交渉や連絡はすべて弁護士が行ってくれます。
早期解決につながる可能性がある。特に投稿者特定に必要な発信者情報開示請求にはタイムリミットがあるため、早期に弁護士に相談し、迅速に対応を開始することが重要です。
肖像権侵害の問題は、インターネットやITに関する知識も必要となる場合が多いです。そのため、弁護士を選ぶ際には、ネットトラブルにくわしい、対応実績が豊富な弁護士に相談することをおすすめします。
法律事務所によっては、初回相談を無料で受け付けているところもあります。まずはそういった窓口を利用して、気軽に相談してみることから始めてみましょう。
まとめ:肖像権侵害から身を守り、適切に対処するために
この記事では、**「肖像権 侵害」**というキーワードを中心に、肖像権の基本的な定義から、どのような行為が侵害にあたるのか、その判断基準、SNS上でのトラブル、そして被害に遭った場 合の具体的な対処法や判例について詳しく解説しました。
肖像権は、私たちの顔や姿態をみだりに撮影されたり公表されたりしないための重要な権利であり、一般人であっても保護されるプライバシー権(人格権)としての側面が重要です。
「肖像権 侵害」にあたるかどうかは、撮影や公開の「受忍限度」を超えるかという観点から、個人が特定できるか、拡散性が高いか、撮影場所はどこか、許可があったかなど、様々な要素を総合的に考慮して判断されます。顔が映っていなかったり、個人が特定できなかったりする場合は、肖像権侵害にあたりにくい傾向があります。また、肖像権侵害自体に刑事罰はありませんが、名誉毀損やリベンジポルノなど他の犯罪が伴う場合は警察への相談が必要です。
万が一、肖像権を侵害されてしまった場合は、被害の拡大を防ぐためにも迅速な対応が不可欠です。まずは侵害行為の証拠を確実に保存し、次にサイトやSNSの運営会社に削除依頼を検討します。匿名相手の場合は発信者情報開示請求によって投稿者を特定し、損害賠償(慰謝料)請求や差止請求といった法的な手段を講じることが可能です。
これらの手続きは専門知識が必要であり、特に発信者情報開示請求にはログの保存期間という時間的な制約があるため、インターネット上のトラブルにくわしい弁護士に早期に相談することをおすすめします。弁護士は、ご自身のケースが法的にどうなるかの判断や、具体的な対処法の提案、そして複雑な手続きの代行をしてくれます。
誰もがスマートフォンを持ち、インターネットで繋がる現代社会において、**「肖像権 侵害」**は誰にでも起こりうる身近なリスクです。この記事が、あなたが肖像権について正しく理解し、自身の権利を守り、また他者の権利を侵害しないための助けとなれば幸いです。もし肖像権侵害の被害でお困りの際は、一人で抱え込まず、専門家である弁護士に相談することを検討してみてください。