離婚を検討される際、夫婦が共同生活を送る中で築き上げてきた財産をどのように分けるかは、非常に重要な問題となります。特に、持ち家であるマンションや一戸建ては高額な資産であるため、その扱いは離婚時の財産分与において大きな問題となりやすい点です。多くの夫婦は、マンションを「売却して現金化し分ける」か、「どちらかが住み続ける」かの選択肢で悩まれます。
もしあなたが「離婚後もこのマンションに住み続けたい」と強く願っているなら、その希望を実現するためには様々な複雑な手続きやリスクが伴うことを理解しておく必要があります。特に、住宅ローンが残っている場合や、マンションの名義がどちらか一方にしかない場合など、解決しなければならない問題は多岐にわたります。
このような状況で、あなたの希望を可能な限り叶え、将来的なリスクを回避するためには、法律の専門家である弁護士に相談することが非常に有効です。弁護士は、あなたの個別の状況を正確に把握し、法的な観点から最適な解決策を提案し、複雑な手続きをサポートしてくれます。
本稿では、離婚時のマンション財産分与における基本的な知識から、「住み続けたい」という希望を叶えるための具体的な方法、それに伴う様々なリスクや注意点、そして専門家である弁護士に相談することの重要性について詳しく解説します。
離婚時の財産分与とは?基本的なルールを知る
まず、離婚時の財産分与とはどのような制度なのか、その基本的なルールを確認しましょう。
財産分与の基本原則:夫婦の共有財産を公平に分割
財産分与とは、結婚している期間に夫婦が協力して築き上げた共有財産を、離婚時に二人で分割することを指します。これは、夫婦が婚姻期間中に得た財産に対して、夫と妻それぞれが請求権を持つ制度です。
財産分与の基本的な考え方は、夫婦が協力して築いた財産を公平に分割することにあります。原則として、**財産分与の割合は「2分の1」**とされています。これは、収入の多寡や、どちらかが専業主婦(夫)であったかに関係なく適用される原則です。夫婦の一方が家事労働や精神的な支援を行うことで、もう一方が収入を得られたという考え方があるためです。
ただし、この2分の1という割合は法律で厳密に規定されているわけではなく、夫婦が話し合いによって合意すれば、どのような割合で分けるか自由に決めることができます。しかし、極端に不均等な分配を行うと、贈与税が課税される可能性があるため注意が必要です。また、例外的に、財産分与が2分の1の割合にならないこともあります。これは、2分の1での分与が公平性を確保できないと判断される場合で、実際の割合は個別の裁判で決定されることがあります。
財産分与の対象となる財産、対象外となる財産
財産分与の対象となるのは、**原則として婚姻期間中に築かれた夫婦の「共有財産」**です。共有財産とは、夫婦の協力によって得られた収入を元に形成された財産の全てを指します。
具体的には、以下のようなものが財産分与の対象に含まれます。
現金・預金
有価証券(株式、投資信託など)
年金・生命保険の積立金
退職金
不動産(家、土地、マンションなど)
自動車
家具や家電、美術品などの動産
夫婦が共同で経営する会社の株式や事業資産
これらの財産は、たとえ夫婦のどちらか一方の名義になっていても、結婚期間中に築かれたものであれば原則として共有財産とみなされます。
一方、財産分与の対象外となるのは、夫婦の協力とは無関係に得られた「特有財産」です。特有財産には以下のようなものがあります。
婚姻前から所有していた財産
婚姻中に自己の名義で相続または贈与によって得た財産
親族からの生前贈与
例えば、「財産目当ての結婚」という言葉があるように、結婚相手が独身時代に得た財産については、離婚時に請求権はありません。また、マンション購入の際にどちらかの親から頭金を出してもらった場合、その頭金部分は贈与として扱われ、頭金を出してもらった側の**「特有財産」として財産分与の対象外**となります。特有財産が含まれる場合の財産分与の計算は複雑になるため、専門家への相談が推奨されます。特有財産であることを主張するためには、遺産分割協議書、贈与契約書、購入時の書類など、特有財産であることを証明できる書類が必要であり、証明できない場合は共有財産とみなされる可能性があるため注意が必要です。
財産分与の種類
離婚時の財産分与には、大きく分けて三つの種類があると考えられています。ただし、実際にはこれらが厳密に区別されず、複合的に考慮されることが多いようです。
清算的財産分与: 婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を、それぞれの寄与度に応じて分配することです。これが財産分与の根幹となる考え方です。
扶養的財産分与: 離婚後すぐに経済的な自立が難しい配偶者が、自立できるまでの生活費として、もう一方の配偶者が財産を分配することです。
慰謝料的財産分与: 不貞行為(不倫)やドメスティック・バイオレンス(DV)など、離婚の原因を作った有責配偶者が、もう一方の配偶者に対して慰謝料として財産を分配することです。有責配偶者であっても、清算的財産分与を求めることは可能です。
マンションを財産分与する方法
マンションや一戸建てといった不動産は「物」であり、預貯金のように単純に分割することができません。そのため、離婚時の財産分与においてマンションをどう扱うかには、主に以下の二つの方法があります。
マンションを売却して現金化し、得た資金を分け合う。
夫婦の一方がマンションを取得し、もう一方に対してマンションの価値に応じた現金を支払う(代償金支払い)。
さらに、住宅ローンが残っている場合や、子どものことなど、様々な事情によってこれらの基本的な方法から派生したいくつかの選択肢や考慮すべき点が生じます。
方法①:マンションを売却して現金化し分け合う
マンションを売却して現金にした上で、そのお金を夫婦で分け合う方法は、不動産の財産分与において最も分かりやすい方法の一つです。現物ではなく現金での分割となるため、割合の計算もしやすく、比較的トラブルが少ないと考えられています。また、離婚後の新生活に向けて、夫婦双方にとってまとまった資金を手にすることができるというメリットもあります。
売却して現金化する際の流れは以下のようになります。
マンションの市場価値と住宅ローンの残債を確認する。不動産会社に査定を依頼したり、住宅ローンの返済予定表などで残債を確認します。
夫婦で話し合い、売却の方針と売却 代金の分け方を決める。話し合いが難しい場合は弁護士に依頼することも可能です。
マンションを売却する。買主との交渉で売却価格が決定します。売却には数カ月かかることもあります。
売却代金から住宅ローンの残債や諸費用(手数料、税金など)を差し引き、残金を分割する。財産分与の対象となるのは、マンションの価値から住宅ローンの残債を差し引いた金額です。売却にかかる手数料や税金(譲渡所得税など)も考慮する必要があります。
財産分与の内 容を離婚協議書に記載する。離婚協議書は公正証書にしておくと安心です。
離婚が成立した後、取り決めに従って財産を分割する。離婚成立前に分与すると贈与税がかかるリスクがあります。
住宅ローンが残っている場合の注意点
マンションに住宅ローンが残っている場合、売却代金でローンを完済できるかどうかが重要なポイントです。
アンダーローン: 売却額が住宅ローンの残高を上回っている状態。この場合、売却代金で住宅ローンを完済でき、ローンの支払いを続ける必要がなくなります。ローン完済後に残った金額が財産分与の対象となります。アンダーローンのケースでは、自宅を売却するのは合理的な判断といえます。
オーバーローン: 売却額が住宅ローンの残高を下回っている状態。マンションの価値が住宅ローンの残額を下回っているため、そもそも財産分与の対象にならないケースが多くなります。オーバーローンのマンションを売却する場合、売却代金でローンを完済できないため、不足している残債務については一括で返済することが原則となります。もし預貯金などから一括で支払う余裕がない場合は、オーバーローンのマンションを売却することは現実的に難しくなります。不足分については、別途無担保ローンを組むという方法もありますが、住宅ローンに比べて借入額が少なく、金利も高くなる傾向があるため、今後の返済負担を考慮して慎重な検討が必要です。
高く売却するためのポイント
少しでも高く売却できれば、手元に残る金額が増え、離婚後の新生活資金に余裕が生まれます。そのためには、豊富な実績を持つ不動産会社に査定を依頼することが重要です。不動産会社は、市場の動向やマンションの状態などを総合的に考慮し、適切な価格設定や有利な売却戦略を提案してくれます。複数の不動産会社に査定を依頼することで、より正確な市場価値を把握することも可能です。
方法②:どちらかがマンションに住み続け、代償金を支払う
自宅を売却せず、夫婦のどちらかがそのまま家に住み続け、家を出るもう一方の配偶者に対して、マンションの価値に応じた現金を支払う方法です。支払われる現金は「代償金」や「代償分割」と呼ばれます。
この方法の最大のメリットは、住み慣れた自宅で生活を続けられることです。特に、子どもの学校を変える必要がなくなるため、離婚に伴う環境の変化を最小限に抑えることができます。
一方で、この方法にはいくつかの注意点があります。
代償金の支払い負担:マンションを取得して住み続ける側の配偶者は、家を出る配偶者に対して、マンションの価値の原則2分の1に相当する代償金を支払う必要があります。例えば、価値4,000万円のマンションであれば、2,000万円の代償金が必要になります。この代償金は高額になることが予想され、原則として一括で支払うべきですが、夫婦の合意があれば分割での支払いも可能です。代償金の支払能力があるかが、この方法を選択できるかどうかの大きなポイントとなります。
マンションの評価額の算定